映画「イニシエーション・ラブ」
*核心には触れませんがほんのりネタバレしています。小説についても触れています。
推理小説で使われる通常のトリックとは違い、叙述トリックは作者が読者に仕掛ける「罠」であり、一般的に実写化は難しいと言われるものが多い。
小説という文字だけの世界で、読者に人物や性別や時系列、場所などを誤認させるようなものが多く、映像にしてしまうと視聴者に簡単にバレてしまう。……と言うよりもそもそもトリックとして成り立たない可能性が大きい。
「この作品は叙述トリックを使っている」と言うことそのものがネタバレに近いこともあり、扱いは難しい。
「イニシエーション・ラブ」も一見恋愛もののようで実はその叙述トリックを使った作品でもあり、原作である小説では最後の2行で読者が大どんでん返しをくらうことになる。
やはり映像化するには難しいと思われる誤認の叙述トリックを、どう映画化したのか気になっていた。
映画の冒頭に登場する鈴木夕樹という大学生のキャラクターについて、「原作にはそんな設定なかったような気がするな……」と思いつつ、それが映像化にあたって重要なポイントになっていることに私は恥ずかしながら気付かなかった。
途中でその仕掛けが発動して、見事に叙述トリックの映像化を成功させている。
映画にはトリックに対するヒント(伏線)が散りばめられている。
原作にも伏線はたくさんあるのだが、映像として可視化されているぶん、より分かりやすいものになっている気がした。
原作を読んでトリックを知っている者からすれば、「それじゃすぐにバレちゃうよ……」といらぬ心配をしてしまうが、一緒に映画を観た原作未読の友人は「最後まで気付かなかった」とのことだった。
トリックとは別のところで良かったのは「イニシエーション・ラブ」に登場する二人の女性、成岡繭子と石丸美弥子だ。
物語全体を通して登場するヒロインの成岡繭子を映画では前田敦子が演じている。
ぶりっこだなぁと思いつつも、男性(鈴木夕樹)目線からすると「そりゃ惚れるわ」と納得の女の子である。
そして物語の後半に出てくる石丸美弥子を木村文乃が演じている。
彼女はまた繭子とは違ったキャラクターで、どちらかというと「都会の大人の女」といった感じ。
一見クールでありつつも、時折可愛らしさも垣間見え、そして本当に綺麗で女の私からしても「たまらんなぁ」と思ってしまうほどだった。
繭子とのギャップにこれまた惹かれるのがよくわかる。
映画の舞台は1980年代後半、当時小学生だった私にとっては懐かしい曲たちがたくさん流れていた。
そして、石丸美弥子の両親役が片岡鶴太郎さんと手塚理美さんだったのは映画の中でもよく登場するワード「男女七人秋物語」の繋がりだったらしい。
さすがにそこは気付かなかった。
映画のキャッチコピー「最後の5分全てが覆る。あなたは必ず2回観る。」
確かに2回観たくなる作品ではあるけれど、だとしたら最後の解説シーンはあんなに丁寧じゃなくても良かったような……
それこそ、最後の展開で驚いた人たちが「えっ、どういうこと?」と頭の中で必死に反芻して考えたり、一緒に観た友達と話しながら答え合わせをしたり、もう一度観たい!と思わせるような終わり方でも良かったんじゃないかな、と思ったりする。
まぁ、それはそれで不満の声はあがるだろうし、原作を読んでどうなっているか既に分かっているからそう思うのかもしれないけれど……好みの問題かな。